他人の失敗を望む

時効になっただろうか、1年ほど前のこと。一緒にある会社の対策をしていた。簡潔に言えば僕は落ち、そいつは通った。

 

僕は、「なんで俺が落ちてあいつが...」正直結果を聞くまで「あいつは落ちればいい」なんて思っていた。なんなら「落ちていてくれ...」なんて願ったこともあった。

 

僕は、そもそも自分がそのような気持ちを持っていることに、辟易とした。そして、お互いに結果が来た時、心臓を掴まれたような気持ちになって「おめでとう、俺の分まで頑張って」とLINEを送った。その日は眠れなかった。次の日も、その次の日も、そいつのことを、その会社を、通らなかった自分を恨んだ。

 

実はそれを1年経った今日、最も信頼のおける尊敬している友人に概要だけ話した。彼は

「万民が持つ感情だと思われる」

と。

最初からの顛末をきちんと話し、落ちればいいと思った話までした。その後少しだけ間があり彼は

「最低だな」

不思議と嫌な気はしなかった。

そのまま続けて

「とはいえ非常に自然な心の流れ。最低であることを飲み込みつつ、この心の動きを否定するのだけはやめた方がいい気がする。最低であることを自覚している方が、最低であることから目を背けて綺麗な自分像に錯覚し続けるよりマシ」

 

なんだか、心の深い、暗くて、どろりとしたヘドロのようなものを抉られたような気持ちになった。彼から「最低」ということを言われたのは ーおそらく出会って10年になるがー 初めてではあるし、それに対しての怒りなどでは全くなく、最初からその答えを期待してたかのような気持ちであった。

 

その通り僕は最低なのである。

僕は、人徳があり、合理的で、利他主義である。そのような理想像を理想像としてではなく「今の自分がそうあってて欲しい」ーこれは友人の言葉をそのまま引用したものではあるがー と解釈をし、まるで自分がそうであるかのように振る舞ってしまう。実際の自分は「最低」なのにもかかわらず、だ。

 

近からず遠からず、このような経験は毎日のように感じる。自分がその場において「どうあるべき」かについて考え、まるで「そうある」かのように振る舞い、自分が実際「どうあるか」について考えを及ばせず、それに蓋をするように見えなくさせてしまう。

 

家にいれば長男として振る舞い、近所の中では物分かりのいい青年として振る舞い、女の前では頼れる男性として振る舞う。一種のロールプレイングゲームをしているようかのような気持ちになる。

 

ただそれを自覚し、真の自分とは何かを考えもしなかった。考えられなかったのではなく、それを考えることを避けてきた。自分が「最低」であることから逃げ続け、そうではない自分を演じてきた。書いている今もそうだ。どこかで「最低」ではない自分を望み、これを書くことで整理され、昇華していくことを望んでいる。

 

どうあるべきか、ではなく、どうなりたいかを自覚し、今の自分が「少なくとも」そうではないことを自覚するべきだということを彼は言っているのだと思う。

つまり、今の自分が

非合理で

利己主義で

人徳に欠ける

という状態を自覚するべきだということだ。

 

何事も自覚して初めて成長する。

 

荀子、性悪編より

 

 

人之性悪其善者偽也
今人之性生而有好利焉
順是故争奪生而辞譲亡焉

生而有疾悪焉
順是故残賊生而忠信亡焉

生而有耳目之欲有好声色焉
順是故淫 乱生而礼義文理亡焉

然則従人之性順人之情必出於争奪合於犯文乱理而帰於暴
故必将有師法之化礼義之道然後出於辞譲合於文理而帰於治
用此観之然則人之性悪明矣
其善者偽也

(訳:

人間の本来の性質は悪であり、それが善であるということは人為によるものである。
さて人の本来の性質は、生まれながらにして利得を好むところがある。
この本性に従うがために、争奪が生じて人に譲るという精神がなくなってしまう。

 

(人の本来の性質に)生まれながらにして憎悪の心がある。
この本性に従うがために、人を損ない傷つけることが生じ、誠意や信義がなくなってしまう。

(人の本来の性質に)生まれながらにして聞きたい見たいという欲求があり、美しい音楽や女性を好むというところがある。
この本性に従うがために、節度のない行いが生じて、礼儀や物事の秩序がなくなってしまう。

そのために人の本性に従い、人の感情におもむくままに行動をすると、必ず争奪が起こり、文理が犯されて、秩序が乱れた状態になってしまう。

 

だからこそ必ず、正しい導き手や礼儀の導きがあり、そののちに(はじめて)辞譲の精神が生まれ、筋道にかない、(世の中が)治まることになるのである。
こうしてみると、人間の本性が悪であることは明らかである。
そしてそれが善であるということは人為によるものである。)

(引用:https://manapedia.jp/text/3839?m=aaa&page=2 )